センターフォワードな夜

ゴール! 大胆で繊細なゴール!
それは、誰もがシビレる瞬間。
たとえ天使でも。
悪魔でさえも!   
〜アトリエ・センターフォワード代表、演出家、劇作家、役者、矢内文章〜
  
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アトリエ・センターフォワード公式サイト

『刃、刃、刃!』連載を終えて。これは挑戦だったな〜!

2015.04.02 Thursday
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    本当に挑戦的な作品でした。
    みんなして、へとへとに疲れました。

    上演時間は1時間20分ほどでしたが、
    なにしろ、舞台面で歩けるところは幅20センチほどの木材の上だけ。
    天井裏が主な舞台でしたので、その木材を天井裏の梁(はり)にしたのです。
    しかも、舞台前から奥にかけては斜めに上がっているという過酷な…。

    アトリエ・センターフォワードとしても
    リアリティのあるやり取りからファンタジックな表現まで飛んでいくきっかけとなった作品でした。

    文化庁主催、日本劇団協議会制作の新進劇団育成公演だからこそ
    実現した作品です。
    さまざまなバックアップがあって、ここまでの挑戦ができました。

    そして、挑戦したからこその賛否両論!
    好きな方は大好きに!!
    苦手な方はボロクソに!!

    という作品でした。

    なにを隠そう、ぼくは

    忍者幼稚園

    という10年くらい前まで実在した幼稚園を卒業しましたので、
    いつの日か、忍者の舞台を創りたいと思っていました。

    いつのまにか忍んできたり、突然消えてみたりということにも挑戦しました。
    厳しい足場での殺陣、ほとんどの場面が暗がりという挑戦もありました。
    楽しくてしょうがない日々でした。

    その後、

    サッカーを舞台にしてよ!

    とのリクエストを何人かからいただいております。
    サッカーもいつの日にか!

    連載を読んでいただきましてありがとうございました!

     
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    ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 21:59 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

    連載20 忍者活劇最終話! 影の一太刀!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

    2015.04.01 Wednesday
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      エピローグ

       朝。
       雨はもう降っていない。
       ハヌケがヒナノを抱いて突っ伏し、動かない。
       その傍らには、短刀が。
       それを、若い男が見つめている。

       静けさのなか、遠くから群集の雄たけびが聞こえてくる。
      関ヶ原の合戦。

       と、天板がゆっくりと開く。
       正成が顔を出す。

      正成   …チューチュー。…チューチュー。(若い男を見やり)始まりましたぞ、殿。

      若い男は、じっと正成を見つめている。

      正成   殿…参りましょう、いい頃合いです。家康は畿内の二国をくれるそうです。粘ったかいがありましたわ。…殿。

       正成は天井裏に上がってくる。
       ハヌケとヒナノを見つける。

      正成  …(若い男に)ご覧になったのですか?

       大筒(おおづつ)の音が聞こえる。

      正成   …あれは新しい戦道具。火薬で鉄の玉を飛ばすのだそうで。…戦も時とともに変わるもの。…しかし、何万という人間の勢いは、たとえ鉄の玉でも…。もっとも、百人でも二百人でもいっぺんに殺せる道具ができれば別ですが。そうなれば刀や槍ではどうにもなりませぬ。

      ジロウとヤスケが忍んでくる。
      正成の背後にゆっくりと近づいていく。

      正成   殺すために新しい道具ができ、殺されないために新しい道具ができる。…すると、そのうち戦はなくなるかもしれませんな。何千もの人間を一度に殺すことができる道具ができたら。…お互い怖くて戦なぞできなくなる。ふふ、そう考えるのはちと趣味が悪いですかな? …もっとも、その前に人間がいなくなるやもしれませぬが。

       忍び寄ったジロウが正成に切りかかる。
      一太刀浴びるが、正成はジロウの腕を掴む。

      正成   …ねずみか!

      組み合う正成とジロウ。

      ヤスケ   おい、よいのか? これで、よいのか?
      ジロウ   (組みあいながら)よい。家族のためじゃ!
      ヤスケ   では、これで帰れるのだな?
      ジロウ   そうじゃ、役目は終わった。
      正成   (少し笑う)
      ヤスケ   いや、まだじゃ。

       ヤスケが正成を刺す。
       正成は倒れる。

      正成    たわけが。
      ジロウ   …行くぞ。
      ヤスケ   おう。

       ジロウとヤスケは出て行こうとする。
       と、ヤスケが振り返る。

      ヤスケ   …帰れる。

       二人は出て行く。
      正成が若い男を睨みつける。

      正成  見たか、小早川秀秋! うぬの後ろには何万もの民がおる。あきらめよ。がんじがらめなのじゃ。(絶命)

       ヒナノがゆっくりと立ち上がり、浮遊しはじめる。
       と、ゲンバが入ってくる。
      正成やハヌケの死体を見て、

      ゲンバ   …何があった? …(確認して)稲葉正成。
      若い男   先を越されたか?
      ゲンバ   …。
      若い男   わしも殺していいぞ。
      ゲンバ   …うぬは…。
      若い男   影。

       若い男は開いた天板から降りていく。

      若い男   わしは、皆の影じゃ。

       天板が閉じる。
       ヒナノがゲンバを見つめている。

      ゲンバ  おぬしなぞ、恐ろしくはない。

       ヒナノがふらふらと漂う。
       それを見つめるゲンバ。
       朝の鳥が鳴き、群集の雄たけびが聞こえる。

       溶暗。
       終演。

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      ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 23:08 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

      連載19 忍者活劇! 闇を断ち切れ!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

      2015.03.30 Monday
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        オタマ   わかった。…だとしたら、姉ちゃは馬鹿じゃ。
        ハヌケ   なに?
        オタマ   わたいは姉ちゃとは違う。
        ハヌケ   うぬ。
        オタマ   一人で行かせたのが間違いだったのじゃ。自ら死を選ぶなぞ、屍のやることじゃ。

        ハヌケ   確かにうぬとは違うわ。ヒナノは美しかった。命を失ってでも、うぬのような役目は拒み続けたのだからな。

        オタマ  なんじゃ、それは。死んで誰が喜ぶのじゃ? 自分で満足しているだけではないか。

        ハヌケ  うぬ。
        オタマ  一番怖いのは、自分で自分を縛ることじゃ!
        ハヌケ  …。ヒナノを愚弄するな。

         ハヌケの怒りとともにヒナノ、若い男がオタマに襲いかかる。
         必死で逃げるオタマ。

        ツブテ   オタマ!

         身を挺してかばうツブテ。
        ヒナノや若い男の刃を必死で防ぐ。

        ヒナノ   どけ、ツブテ。
        ツブテ   姉者。
        ヒナノ   わたしには何も言ってくれなかった。
        オタマ   屍じゃ、兄ちゃ。

        オタマが刀をツブテに差し出す。

        ツブテ  …。
        ヒナノ   どけ。陰で震えていたうぬには何もできぬ。

         ヒナノが襲いかかる。

        ツブテ   すまぬ、姉ちゃ!!

         ツブテはオタマから取った刀でヒナノを斬る。

        ハヌケ  ヒナノ!

         ヒナノは支えを失ったように倒れる。
         ハヌケがヒナノに抱きつく。
         若い男がしりもちをつく。
        お互いを庇いあうようにしながらツブテとオタマはヒナノを見ている。
        ヒナノを抱いていたハヌケが泣いているようだ。

        ツブテ  ハヌケ。…ハヌケ!
        ハヌケ  うぬにはわからん!
        ツブテ  …。
        ハヌケ   ヒナノ。…すまなかったな、ヒナノ。おれはだめな男じゃ。見ているしかできなかったな。お前になにもしてやれなかったな。

        サイゾウ  …ハヌケ。おれのせいじゃ。
        ハヌケ    …知ってるか? ヒナノは一度、おれの脚をさすってくれたことがあるのだぞ。
        サイゾウ  …そうか。
        ツブテ    …うぬ。その女をどこで拾ってきた?
        ハヌケ    …。
        ツブテ    術のために、殺したのか?
        ハヌケ    …狂人じゃ。雑兵の慰み者になっておった。
        ツブテ    …うぬが殺したのか?
        ハヌケ    …不幸な女じゃ。
        ツブテ    うぬが決めることなのか?
        ハヌケ    …(決然と)うぬにはわからぬ。

         ツブテはサイゾウを覗き込む。

        ツブテ    サイゾウ。動けるか?
        サイゾウ  …無理じゃ。
        ツブテ    …そうか。

         ツブテはサイゾウをなんとか担ごうとする。
         今にもつぶれそうな様子。
        やっとのことで、背中に担ぎ、歩こうとする。

        オタマ   兄ちゃ。
        ツブテ   …抜けるぞ。
        オタマ   え?
        ツブテ   抜けるのじゃ。
        オタマ   …そうか。
        ツブテ   供にじゃ。オタマ。
        オタマ   …うん。
        ツブテ   …(ハヌケを見て)ハヌケ?
        ハヌケ   勝手にせい。
        ツブテ   …(オタマに)行くぞ。
        オタマ   うん。

         サイゾウを担ぎながら少しずつ歩くツブテ。
        が、とても無理そうである。

        サイゾウ  (咳払いして)ツブテ。
        ツブテ    どうした? 辛抱せい。
        サイゾウ  いや、言いにくいのだが、…無理ではないか、これは? 
        オタマ  サイゾウ!
        サイゾウ いや、おれが言うのもなんだが。
        オタマ  そうじゃ。
        サイゾウ だが、出来そうに見えるか、オタマ?
        オタマ  …。
        ツブテ    たわけ! なんとかするのじゃ。
        オタマ    なあ、こういうときの術はないのか?
        ツブテ    ない!
        オタマ    …そうか。
        ツブテ    たわけ! そう都合よくいくものか。
        サイゾウ  …あっという間に殺されてしまうな、これは。
        オタマ   …秒殺じゃ。
        ツブテ    …。
        サイゾウ  いや、おれが言うのもなんだが。
        オタマ  すまぬ、兄ちゃ。
        ツブテ    …試してみなければわからぬ。一人で闇に飲まれるよりはましじゃ。うぬらの力を貸してくれ。

        サイゾウ  …わかった。頼む。
        オタマ    かっこいい!
        ツブテ    からかうな。…うぬも手伝え。
        オタマ    うん。(足を持つ)

        オタマはサイゾウの足を持つ。
        するとサイゾウの体は水平になるが、
        担ぐツブテの体勢はますますキツくなる。

        ツブテ   オタマ!
        オタマ  なんじゃ!
        ツブテ  …引っ張るなよ。
        オタマ   …わかっておる。

         よろよろと動き出す三人。

        オタマ    兄ちゃ、からかってはおらんぞ。
        ツブテ    やかましい。
        サイゾウ  うぬ、臭いなあ。
        ツブテ   やかましい。
        オタマ  …重い。
        ツブテ  やかましい!

         不恰好に出て行く三人。
        若い男が少し笑う。
         溶暗。

        エピローグ

         朝。
         雨はもう降っていない。


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        ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 23:01 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

        連載18 忍者活劇! わたいは屍にはならん!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

        2015.03.29 Sunday
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           崩れ落ちるサイゾウ。

          ハヌケ   (笑う)とうとう掛かりおったわ!
          ツブテ   ハヌケ。
          ハヌケ   伊賀のサイゾウ、ぬかったな。これが裁きじゃ!
          ツブテ   なんのつもりだ?
          ハヌケ   知れたことよ。抜け忍を始末したのじゃ。ツブテ、よく見ておけ。これが掟だ!
          サイゾウ  …うぬ。うぬもただで済むと思うな。おれは三井越後屋の手代…
          ハヌケ   それがどうした? うぬも憐れなやつじゃ。三井とはとうの昔に話がついておるわ。

          サイゾウ  え?
          ハヌケ   三井がうぬごときを守ってくれると思ったか? 使いっ走りの忍びを三井が守るいわれなどないわ。

          サイゾウ  しかし、おれは、三井のために…。
          ハヌケ   信じたうぬが悪いのよ。抜け忍であることなど、はじめから承知の上。サイゾウ、商人の世界も恐ろしいことじゃな。三井は泳がせてるうぬを利用してさんざん儲けよった。

          サイゾウ  …くそ。どこまで行っても…。
          ハヌケ   同じことよ。どこまで行っても、暗闇がうぬを飲み込む。
          サイゾウ  どこまで行っても…。
          ツブテ   サイゾウ。
          ハヌケ   動くな。ツブテ、抜けることなど考えるな。たとえ殿様になっても同じなのじゃ。わかるか? 秀秋がいくら思い悩もうが、もう小早川がどちらにつくかは決まっておる。がんじがらめなのじゃ。我らと同じよ。ましてやうぬもおれもただの忍び。

          サイゾウ  うう…。
          ツブテ   サイゾウ!
          ハヌケ   掟だ。介抱してはならぬ。このまま血を流させてじわじわ死なすのじゃ。…それとも、ヒナノに止めを刺させるか?

          ツブテ   …やめてくれ。

          ヒナノがサイゾウのもとに寄る。
          ツブテは膝をついてしまう。

          ハヌケ   …泣け。それがただひとつの方法かもしれぬ。どうだ、オタマ? 姉ちゃの仇は取ったぞ。

          オタマ   …キチガイ。
          ハヌケ   …なに?
          オタマ   ヘンタイ。ビッコ。
          ハヌケ   …。
          オタマ   なにが掟じゃ。なにが裁きじゃ。
          ハヌケ   なんだと?
          オタマ   うぬのふぐりは銀杏の実よりも小さい。
          ハヌケ   …。
          オタマ   うぬの肝っ玉のようじゃ。
          ハヌケ   怒らせる気か?
          オタマ   サオは曲がっておったな。うぬの心と同じじゃ。
          ハヌケ   ふふ、その手は食わんぞ。

           若い男が短刀を振り回す。
           慌てて避けるオタマ。

          ツブテ   オタマ!
          オタマ   兄ちゃ。こいつは猫。そっちは屍じゃ!
          ハヌケ   いいや、ヒナノだ。
          オタマ   姉ちゃを汚すな!
          ヒナノ   刃が刺さった。
          オタマ   黙れ、屍!
          ヒナノ   サイゾウ、すまぬ。
          オタマ   黙れ!
          ヒナノ   オタマ。血がとまらぬ。
          オタマ   うぬは屍じゃ!
          ハヌケ   (笑う)
          オタマ   何がおかしい。
          ハヌケ   屍に話しているではないか。…それはうぬの姿よ。
          オタマ   やかましい。兄ちゃ、こんなやつの言いなりになるな。こいつも屍じゃ。

           オタマはツブテが落とした刀を拾い、ハヌケに突きつける。

          ハヌケ   逆らうつもりか? うぬが?
          ツブテ   よせ!
          オタマ   わたいは屍にはならん。身体を張って生きるんじゃ。
          ハヌケ   うぬの力では無理だ。
          オタマ   兄ちゃのためだったらどんな目にあってもいい。だが、うぬのためだったら嫌じゃ。伊賀や甲賀や、なにやらわけのわからないもののためには嫌じゃ。

          ツブテ   オタマ。
          ヒナノ   オタマ、姉ちゃは行くよ。
          ハヌケ   無駄なことを。死にたいのか?
          オタマ   …屍になるのは死んでからで十分じゃ。
          ヒナノ   サイゾウはいなくなった。(立ち上がる)
          若い男   闇。
          ヒナノ   サイゾウにとって…
          若い男   飲み込まれる。
          ヒナノ   ここにいるのは死んだも同然。だから…
          若い男   暗くてわからん。
          ヒナノ   姉ちゃが代わりに死んであげるのじゃ。
          ハヌケ   ヒナノは闇に咲く花だ。
          ヒナノ   オタマ。
          オタマ   …かっこつけるな。
          ハヌケ   そう思わんか。すべてを得心して自分を犠牲にする。美しいじゃないか。
          オタマ   それが屍というのじゃ。うぬらはあきらめているだけじゃ。
          若い男   息ができない。
          ヒナノ   嬉しいことじゃ。
          ハヌケ   ヒナノは殺されたのではないぞ。
          オタマ   なに?
          ヒナノ   サイゾウのために…
          ハヌケ   おれは、切れなかった。
          ヒナノ   この身を捧げるのじゃ。
          ハヌケ   おれの目の前で…
          ヒナノ   許して。
          ハヌケ   ヒナノはおのれを刺したのじゃ。

           ヒナノが小さく笑う。
           雨が強くなっている。
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          ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 01:44 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

          連載17 忍者活劇! 光か闇か、空蝉の術!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

          2015.03.28 Saturday
          0

             ヒナノは人形のような動きで顔を上げる。

            ヒナノ   サイゾウ。戻ってきたのか?
            サイゾウ  (ハヌケに)うぬか?
            ハヌケ   ふふ。
            ヒナノ   ツブテ。行かないのか?
            ツブテ   なんてことを…。
            ハヌケ   見えるだろう? こっちもだ、ほれ。

             若い男が動き始める。やはり人形のような動きで。

            若い男   行かないのか、ツブテ?
            ハヌケ   行かせぬぞ。
            ヒナノ   行かせてあげる。
            ツブテ  やめてくれ!

             ヒナノは短刀を出す。

            ツブテ   よせ、姉者。
            サイゾウ  やめろ、ハヌケ。
            若い男   (笑う)この刃はお前の刃。(短刀を出す)
            ヒナノ   おのれに刺そうか?(刃を突きつける)
            ツブテ   姉者。
            サイゾウ  ハヌケ。
            ハヌケ   生きてる限り、うぬらも忍びよ。
            ヒナノ   サイゾウ。
            若い男   振り向くなと言ったではないか。見てはいけないと。
            ヒナノ   頷いたはず。
            サイゾウ  …ハヌケ、うぬ。
            ハヌケ   おれではない。うぬが言わせてるのよ。
            ツブテ   空蝉(うつせみ)か!
            ハヌケ   うぬらの心じゃ。
            若い男   この刃。
            ヒナノ   どこに向けたと思う?
            オタマ   兄ちゃ。

             突然、ヒナノがツブテに切りかかる。
             かろうじて避けるツブテ。

            ツブテ   やめろ、姉者。
            サイゾウ  ツブテ。
            若い男   行きたいのだろう?
            ヒナノ   暗闇にいてはいけない。
            ツブテ   やめてくれ。
            オタマ   屍じゃ、兄ちゃ。そいつはただの屍じゃ。
            若い男   大丈夫。
            ヒナノ   お前なら抜けきれるはず。
            サイゾウ  ヒナノ。
            ツブテ   やめろ。
            オタマ   姉ちゃではない。
            若い男   光。
            ヒナノ   見えているのだろう?
            ツブテ   姉者。
            若い男   闇。
            ヒナノ   飲み込まれる。影。
            若い男   お前は影。
            ツブテ   抜けたりはせぬぞ、姉者。サイゾウが抜けて、姉者は殺されたじゃないか。おれが抜ければオタマが殺される。

            サイゾウ  幻じゃ、ツブテ。
            若い男   幻だったのか、サイゾウ?
            ヒナノ   うぬの自由。
            サイゾウ  なに?
            若い男   光。
            ヒナノ   どんな世界じゃ?
            若い男   うぬの見た世界。
            サイゾウ  幻じゃ。幻じゃ。
            ハヌケ   (笑う)
            ヒナノ   連れて行って。
            サイゾウ  やめろ。
            オタマ   やめろ、ハヌケ。

             オタマはハヌケに組み付く。
            が、逆に組み伏せられてしまう。

            ツブテ   オタマ!
            ハヌケ   無駄じゃ、オタマ。うぬには救えぬ。
            オタマ   くそ。兄ちゃ。
            ツブテ   ハヌケ。うぬ。

             ツブテは刀を抜く。

            ハヌケ   …いや、救えるぞ。…(やさしく)ツブテ。切れ。オタマを。(激しくオタマの頭を上げさせる)
            オタマ   いたたたた。
            若い男   (笑う)
            ツブテ   な…
            ヒナノ   ツブテ。
            若い男   ツブテ。ツブテ。
            ハヌケ   切ってみろ。うぬが抜ければオタマを殺さねばならん。おれとて気の重いことじゃ。どうせならうぬ自身で切って行け。…力を試したいというならば、その責任は背負っていってもらうぞ。

            ヒナノ   ツブテ。
            ハヌケ   …何かを得るためには何かを捨てねばならぬ。オタマを切れ。妹さえいなければ、うぬの力を存分に試せるではないか。

            ヒナノ   見果てぬ夢か?
            オタマ   …切れ、兄ちゃ!
            若い男   ツブテ。
            オタマ   兄ちゃは抜けたいのだろ? 忍びとは違うものになりたいのだろ? ならば、わたいを切ってくれ。
            ハヌケ   ほれ、殊勝なことをぬかしておるぞ。
            ツブテ   …。
            オタマ   わかっておる。兄者。わたいは、足手まといじゃ。
            ツブテ   オタマ!
            ハヌケ  (笑う)サイゾウ、聞いたか? さすがヒナノの妹。言うことがそっくりじゃ。
            サイゾウ  うぬ…。
            若い男   サイゾウ。
            ヒナノ   私は足手まといじゃ。
            若い男   一緒には行けぬ。
            ヒナノ   私には抜けられぬ。足を引っ張るだけじゃ。
            サイゾウ  やめろ。
            ヒナノ   だから影になる。
            若い男   サイゾウ。
            ヒナノ   お前の影に。…いつまでも供にいられる。
            ツブテ   やめろ、ハヌケ。…抜けたりはせぬ。(刀を捨てる)
            オタマ   だめだ、兄ちゃ。
            ヒナノ   だが、サイゾウ。振り向いてはならぬ。
            若い男   影は影。
            ヒナノ   振り向けば、影が影ではなくなる。
            サイゾウ  すまぬ。

             サイゾウはヒナノに近づく。

            サイゾウ  ヒナノ、すまぬ。おれは間違っていたのかもしれぬ。

             ヒナノがサイゾウを刺す。

            サイゾウ  あ…。
            ヒナノ   この刃はお前の刃。
            サイゾウ  ヒナノ。
            ヒナノ   影は影。
            ツブテ   サイゾウ!

             崩れ落ちるサイゾウ。
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            ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 01:27 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

            連載16 忍者活劇! 闇に飲み込まれる!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

            2015.03.27 Friday
            0

              ジロウ   寝ておるわ。
              ヤスケ   意外と肝が据わっておるな。決戦間近だというのに。
              ジロウ   たわけ。寝入っておるのでは、秀秋のハラがわからんではないか。
              サイゾウ  時機を逃すかもしれんぞ。
              ツブテ   え?
              サイゾウ  いつかは決めねばならんが、遅すぎるとなにも得られぬ。なあ、ツブテ?
              ツブテ   …どちらの話だ?
              オタマ   兄ちゃ。わたいが邪魔ならいつでも切ってくれ。
              ヤスケ   …生まれが悪かったな。
              オタマ   え?
              ヤスケ   秀秋は元々、北の政所の兄の息子。それが秀吉の養子となり、それからほどなく小早川家に放り出された。義理もあれば恨みもある身の上。迷うのが当たり前じゃ。やはり、生まれが悪かったのだな。

              サイゾウ  我らもじゃ。

               沈黙。

              ジロウ   おれは違うぞ。甲賀に生まれてよかったと思っておる。
              ヤスケ   ふん。うぬには役目がすべてだからな。
              ジロウ   おう、役目よ。その役目がおれを生かしておる。ただ生きているということではない。おれの頭も身体もすべてが生かされておるのじゃ。痛快ではないか。

              ヤスケ   ふん。誤魔化された気分じゃ。
              ジロウ   うぬのような者にはわかるまい。
              ヤスケ   うぬはやすやすと仲間を裏切れるからな。
              ジロウ   なに?
              ヤスケ   昔のこととは言わせんぞ。恨みは忘れぬ。
              ジロウ   まだ言うか? うぬら、あのまま籠城しておったら全滅ぞ。気に病むな。うぬは皆を救ったのだ。

              ヤスケ   裏切らせたのじゃ、おれを。家族を人質に取って。あれは救ったのではない。
              ジロウ   やはりうぬにはわからぬか。もっと大所高所に立って…
              ヤスケ   おれが火を放ったのだぞ。信じて戦っている仲間を裏切って。
              ジロウ   うぬとは目線が違うということだ。
              ヤスケ   わけがわからぬ。あんなことをさせおって。
              ジロウ   たわけが。
              ヤスケ   たわけで結構。そのたわけに得心させられないのはどこのどいつじゃ。
              ジロウ   落ち着け。
              ヤスケ   くそったれ。
              オタマ   …甲賀も変わらぬ。
              ヤスケ   あの時は東で、今度は西。わけがわからん。…東か西か、はっきりしてくれ。
              ジロウ   …我らは甲賀衆よ。
              サイゾウ  金じゃ。つまるところは。東も西もない。

               と、天板がゆっくり開く。
              飛びのく一同。
               下の間から差し込む光が大きくなる。

              三

               その光の中から、若い男が顔を出す。

              若い男   飲み込まれたのか?

               若い男が人形のような動きで上ってくる。

              若い男   …闇に。
              ツブテ   来る。
              若い男   影は見えぬ。
              サイゾウ  何者だ?
              ツブテ   こいつは、ただの狂人…。

               小さく笑いながらうろつく若い男。

              オタマ   猫…。
              ジロウ   …(下の間を確認して)こやつ、いったいどうやって。

               わずかに煙が入ってくる。
               同じ穴からハヌケが姿を現す。

              ハヌケ  (笑いながら)不気味なほど静かだな。

               身構える一同。

              ツブテ ハヌケ、何があった?
              ハヌケ 何もない…。
              ジロウ   伊賀者か。
              ハヌケ   おかしいと思わぬか? …この静けさ。
              ジロウ   …何をつかんだ?
              ハヌケ   オタマ、うぬが逃げたことなどなかったことのようじゃ。
              ヤスケ   …好都合ではないか。
              ハヌケ   甲賀衆。うぬらがやったことも、おれがやったことも、すでに忘れられておる。これでは真田者とてじっとしておるしかないわ。

              ジロウ   どういうことだ?
              ハヌケ   さあな。…あるいは…。
              ジロウ   …(ヤスケに)行くぞ。
              ヤスケ   え?
              ジロウ   探りに行くのだ。ここにいても何もならん。
              ヤスケ   なんのために?
              ジロウ   …なに?
              ヤスケ   西のためか? 東のためか?
              ジロウ   …わからん。
              ヤスケ   金のためか?
              ジロウ   わからん。…まずは、探ってみることじゃ。
              ヤスケ   …答えによっては、うぬを切るかもしれん。
              ジロウ   …行くぞ。

               ジロウ、ヤスケは出て行く。

              ハヌケ   答えは出ている。無駄なことじゃ。…しかし、それが忍びよ。
              ツブテ   何が言いたい?
              ハヌケ   はじめから決まっていることじゃ。足掻いても無駄ということじゃ。
              サイゾウ  ハヌケ。
              ハヌケ   ほれ、サイゾウ、後を取られておるぞ。

               サイゾウが振り返ると、そこにヒナノが立っている。

              サイゾウ …ヒナノ。
              オタマ   姉ちゃ?

               ヒナノは人形のような動きで顔を上げる。

               
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              ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 01:08 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

              連載15 忍者活劇! 忍びとは、なんじゃ!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

              2015.03.26 Thursday
              0

                オタマ  どう違う?
                ゲンバ  え?
                オタマ  うぬは忍びではないのか?
                ツブテ  オタマ。

                 ハヌケの声が聞こえる。

                ハヌケ  (声)毛利殿裏切り! 大坂動かず! 毛利軍三万、大坂動かず!
                ゲンバ  ふふ。始めおった。
                ツブテ  東軍優勢。
                ゲンバ  まだわからぬ。

                 ジロウとヤスケの声も聞こえる。

                ジロウ  (声)徳川秀忠、今だ信州!
                ヤスケ  (声)秀忠、信州で足止め!
                ツブテ   甲賀衆は西軍。
                サイゾウ  それもわからぬ。
                ツブテ   え?
                サイゾウ  …。
                ゲンバ   甲賀も伊賀も東西に入り乱れておる。なぜなら…うぬの口から言ったらどうだ、越後屋さん?

                サイゾウ  …。

                 ジロウとヤスケが入ってくる。

                ジロウ  真田の。話を使わせてもらったぞ。
                ヤスケ  (オタマを見て)お、おぬし、無事だったか。
                オタマ …甲賀衆。
                ジロウ そうじゃ。
                ヤスケ 心配しておったぞ。
                オタマ  …うぬらは忍びか?
                ヤスケ  え?
                ジロウ …見ての通りよ。
                オタマ  (ゲンバに)なあ、どう違うのだ?
                ヤスケ  は?
                オタマ  同じ忍びなのに違うとはどういうことじゃ?
                ヤスケ  えっと、話が見えないぞ。
                ジロウ  黙れ。間が悪かったのだ。
                オタマ  (甲賀衆に)うぬらは甲賀衆なのだな?
                ヤスケ  お、おう。
                ジロウ  ジロウと申す。
                ヤスケ  お。
                オタマ  甲賀はどうなのだ?
                ジロウ  え?
                オタマ  甲賀も違うのか?
                ヤスケ  …ヤスケと申す。
                オタマ  …わからん。
                ツブテ  いい加減にしろ、オタマ。
                オタマ  なぜじゃ?
                ツブテ  なにを言っているのかわからん。
                オタマ  わたいもわからん。
                ヤスケ  おれもわからん。
                ジロウ  わかってやりたいが…。
                ゲンバ  ははは。それほど幸村様はすごいということよ。わしは真田幸村のために働いておる。おぬしらはいったいなんのためじゃ?…そこが、うぬらとはまったく違う。
                オタマ  …。
                ゲンバ  わからんか。おぬしらは自ら忍びとなっているのじゃ。

                 言い捨てて、ゲンバは出て行く。

                オタマ  どういうことだ?
                ジロウ うん…。
                オタマ なあ。
                ジロウ  つまり、…おそらく、…きっと、…(ヤスケに)なあ?
                ヤスケ  わからん。
                オタマ  兄ちゃ。
                ツブテ   …命をかけるものがあるかということだ。
                サイゾウ  かけたいもの、だろうな。
                ツブテ   …今のうぬならどうなのじゃ?
                サイゾウ  ツブテ…抜けたいのか?
                ツブテ   え?
                サイゾウ  わかっておるはずだ。抜けたいのか?
                ツブテ   …。
                オタマ   兄ちゃ。
                サイゾウ  ならば今だ。この混乱に乗じて抜けるのだ。これだけの戦だ。どちらが勝とうがしばらく天下の騒ぎは収まるまい。うまくすれば、その間に抜け切れるかもしれん。

                ツブテ   …。
                サイゾウ  力を貸すぞ。お前となら…
                オタマ   今度は誰を殺す気?
                サイゾウ  …。
                オタマ   姉ちゃを殺しただけでは物足りないか? 姉ちゃを殺して抜けたくせに、今さらなぜ兄ちゃをそそのかす?

                ツブテ   オタマ。
                オタマ   うぬは安全地帯におるではないか。
                サイゾウ  まだ抜けおおせてなかったわ。
                オタマ   なにを勝手な。
                ツブテ   よせ、オタマ。
                オタマ   なぜじゃ? こいつは仇ぞ。
                ツブテ   やめてくれ。
                オタマ   …まさか、迷っておるのか? …兄ちゃ。
                ツブテ   …サイゾウ。抜けおおせてないとはどういうことだ?
                サイゾウ  …。
                オタマ   兄ちゃ。
                ツブテ   抜けたりはせぬ。ただ…。
                オタマ   ただ?
                ツブテ   わからんが。…虚しい気がするだけだ。
                オタマ   なんじゃ、それは?
                ツブテ   だから…なんのためにこんなことをしておるのか。
                オタマ   わたいのためだけでは不足か?
                ツブテ   やってることがあべこべなのじゃ。結局、お前をひどい目に合わせている。
                オタマ   …わたいはうまくできないからな。
                ツブテ   そういうことではない。
                オタマ   足手まといということか。
                ツブテ   オタマ。
                オタマ   聞く耳持たんわ。

                 オタマは一枚の天板を開けて降りようとする。
                 羽交い絞めにして引き止めるジロウ、ヤスケ。

                ヤスケ  なんのつもりじゃ。気でも違ったか。
                オタマ  離せ。

                 ジロウが刀を突きつける。

                ジロウ  黙れ!

                 沈黙。

                ヤスケ  (下の気配をうかがって)…不気味なほど静かだな。

                 沈黙。
                 
                ジロウがゆっくりと天板を閉める。
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                ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 00:44 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

                連載14 忍者活劇! 縛られた忍びたち!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

                2015.03.25 Wednesday
                0

                  ハヌケ  この騒ぎでは容易に動けんぞ。役立たずが。
                  オタマ  …。
                  ハヌケ  (ニヤリとして)しかし、うぬ、命拾いしたな。
                  オタマ  はい。
                  ハヌケ  よかったな。おれがたどり着く前で。
                  オタマ  え?
                  ハヌケ  おれが先ならうぬを殺さねばならなかった。…覚悟はできていたのだろうな?

                  オタマ  …はい。
                  ハヌケ  うぬ、何を話した?
                  オタマ  何も話はせぬ。
                  ハヌケ  …どうかな?
                  オタマ  …口を割りなどしない。
                  ハヌケ  信用しろというのか?
                  オタマ  隙を見て逃れるなどわけない。
                  ハヌケ  いやあ、無理だな。教えてないから。おれが教えたのは、こっちのほうだ。(股間を突き出し)…握れ。

                  ツブテ  ハヌケ。
                  ハヌケ  ほら。…信用してほしくば、握れ。教わったとおりに。
                  ツブテ  うぬ。
                  ハヌケ  動くな。おれを信用させられねば、こいつは殺される。うぬが邪魔をすれば、うぬは殺され、結局こいつも殺される。うぬには何もできん。(オタマの顔を乱暴にあげて)ほら、握れ。

                   オタマは、ハヌケの股間を握る。

                  ハヌケ  ふふ。うぬしだいじゃ。立派な忍びだと納得させてくれ。
                  ツブテ  オタマ!
                  オタマ  …兄ちゃ、臭いよ。
                  ツブテ  え?
                  オタマ  忍びがそんな臭いをさせてどうするの?
                  ツブテ  オタマ。
                  オタマ  …平気。
                  ツブテ  …。
                  ハヌケ  ふぐりもだ。
                  サイゾウ 狂ってるぞ、ハヌケ。
                  ハヌケ   黙れ、サイゾウ。うぬに何が言える。お、いいぞ。
                  サイゾウ よせ。
                  ハヌケ   サイゾウ。本当に助ける気なぞなかったのだろ?
                  サイゾウ なに?
                  ハヌケ   うぬはそういう男よ。こいつをここに連れてきたのはなぜじゃ? なぜ、一緒に逃げなかった? …ふふ、ヒナノのときと同じだな。うぬも所詮は忍び。自分だけ生き延びることしか考えられないのじゃ。いかにうぬだとて、骨の髄まで叩き込まれた忍びの性からは逃げられまい。

                  サイゾウ  ツブテ!
                  ツブテ  …。
                  ハヌケ   ふふ、憐れじゃの。うまく抜けおおせたと思っているようだが、それだとてヒナノを見殺しにしてのことじゃ。まさか、うぬ、後悔しておるのか?

                  サイゾウ …うぬら、オタマをどうするつもりだ。
                  ハヌケ   うぬには関係あるまい。
                  サイゾウ ツブテ、うぬの妹だぞ。
                  ハヌケ   うぬは恋仲の女を見殺しにしたではないか。
                  サイゾウ ハヌケ。
                  オタマ   よけいなお世話じゃ、サイゾウ。…こんなこと、今さら。…兄ちゃと生きるためならなんでもする。

                   外で爆発音。

                  ゲンバ (声)あの女の仕業じゃ! 探せ! まだそこらにいるはずじゃ。探せ!

                   ゲンバが入ってくる。

                  ゲンバ  (様子を見て)…。
                  ハヌケ  真田衆、騒ぎを大きくしてどうする? 
                  ゲンバ  …なんの真似だ、おぬしら?
                  ハヌケ 狙いはかく乱か?
                  ゲンバ おい、女。
                  オタマ  …。
                  ゲンバ  …伊賀者のやることはわからんな。(サイゾウを見て)それに三井越後屋も伊賀者とは。

                  ハヌケ  そいつは違う。商人になりおった。
                  ゲンバ  抜け忍か…。
                  ハヌケ  虎の威を借る狐というところじゃ。
                  ゲンバ  どうやらここでも糸が絡まっておるらしい。

                  ハヌケ  (オタマに)お。やめ、やめ。そこまでじゃ。…とんだ邪魔が入った。無駄な精を使ってはいかん。

                  ゲンバ   ふふ、このような時に。呑気なのか、それとも…。
                  サイゾウ なぜ、真田衆がここにいる?
                  ゲンバ   これが幸村様の戦だ。
                  サイゾウ なに?
                  ゲンバ   戦は終わらぬ。ここではな。おぬしらにとっても悪い話ではなかろう。
                  ハヌケ   なんじゃ、どちらとも商いしているのか? たちが悪いな、サイゾウ。
                  ゲンバ   ははは。おぬしらとて変わらんわ。
                  ハヌケ   ははは。…それが忍びよ。
                  ゲンバ   …わしは、違う。
                  ハヌケ   …邪魔するつもりか?
                  ゲンバ   そうかもしれぬ。
                  ハヌケ   爆破してかく乱、その先は…。
                  ゲンバ  (サイゾウに火薬を見せる)…いい火薬だ。三井越後屋に頼んだかいがあったわ。
                  ハヌケ   くそ。…サイゾウ、笑わせるな。うぬはすでに絡めとられておるわ。

                   ハヌケは出て行く。

                  オタマ  どう違う?
                  ゲンバ  え?
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                  ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 00:39 * comments(1) * trackbacks(0) * - -

                  連載13 忍者活劇! オタマとサイゾウと…!! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

                  2015.03.24 Tuesday
                  0

                    二―二

                     夜中の天井裏。
                     稲光。
                     サイゾウが、縛られたオタマを担いでいる。
                    乱れた襦袢姿のオタマ。
                     少し離れてツブテ。
                     雷鳴が轟き、雨の音に変わる。

                    真田忍者ゲンバの声が聞こえる。

                    ゲンバ  (声)かがり火を絶やすな!女は近くに潜んでいるはずだ。火を強くするのだ!

                    サイゾウ  見殺しにするつもりか?
                    ツブテ   …。
                    サイゾウ  …ツブテ。うぬの妹ではないか。
                    ツブテ   忍びだ。
                    サイゾウ  たわけたことを。
                    ツブテ   …役目のためだ。秀秋が下で寝ておる。
                    サイゾウ  寝ているだけではないか。
                    ツブテ   …いつ、何時(なんどき)…
                    サイゾウ  もうよい。…うぬ、おれを責めることなどできぬな。

                     サイゾウはオタマを肩から下ろす。

                    ツブテ   オタマ。(近づこうとする)
                    サイゾウ  おい。…それはちと虫が良すぎるのではないか?
                    オタマ   (うめき声)
                    サイゾウ  オタマ。
                    オタマ   …サイゾウ!
                    サイゾウ  気がついたか。
                    オタマ   …なんのつもりじゃ?
                    サイゾウ  危ないところであった。
                    オタマ   (暴れ始める)ちくしょう。離せ。離せよ、くそサイゾウ。
                    サイゾウ  騒ぐな。
                    オタマ   (ツブテを見つけ)兄ちゃ、なぜこいつがここに?
                    ツブテ   よせ。助けてくれたのだ。…おれの代わりに。
                    オタマ   え?
                    ツブテ   …おれは、役目が。
                    オタマ   兄ちゃ…(サイゾウに)ふん。余計なことを。

                     オタマは縄を解こうとするが、できない。
                    それを見て、サイゾウが縄を解こうとする。

                    オタマ  触るな。このぐらい、自分で解ける。

                     息遣いが荒いだけで解けないオタマ。
                     サイゾウが再び解こうとする。

                    オタマ  触るな。…自分で解ける、このぐらい。

                     オタマ、念力で解こうとする。
                     見かねたツブテが解こうとする。

                    オタマ  (あっさり)ありがと、兄ちゃ。
                    ツブテ  …何があった?
                    オタマ ごめんね。下手を打った。でも、話はちゃんと聞いた。三成から使者が来て、これから会いたいって。
                    ツブテ  なに?
                    オタマ  誰かが名代で出る様子。
                    ツブテ  誰だ?
                    オタマ  たぶん、稲葉か…
                    サイゾウ いや、稲葉は徳川と通じておるぞ。
                    オタマ  黙れ!(髪に残っていたかんざしを抜いて、サイゾウに突きつける)お前になぞ話しておらぬ。兄ちゃ、どうしたのじゃ?  姉ちゃのこと、忘れたわけではあるまい。

                    サイゾウ  …。
                    オタマ   こいつは姉ちゃを見殺しにしたのだぞ。

                    いつのまにか、ハヌケが入ってきている。

                    ハヌケ   よせ、オタマ。
                    オタマ  …はい。
                    ハヌケ   なんのつもりだ、サイゾウ?
                    サイゾウ ハヌケか。
                    ハヌケ   三井越後屋の手代になるとは考えたな。返り血で顔を洗うといわれた伊賀のサイゾウには似合いの隠れ蓑じゃ。

                    サイゾウ 隠れ蓑ではない。おれは自由になったのだ。
                    ハヌケ   じーゆーう? 口が腐りそうな響きじゃ。ただ、血を見なくてすむようになっただけではないか?

                    サイゾウ なに?
                    ハヌケ   知っていようが。おれがヒナノを殺したこと。うぬは自分で手を下さなくなっただけだ。

                    サイゾウ 違う。今は…
                    ハヌケ  今はもう忍びではないのだろ。われらは違う。余計な口出しは無用じゃ。市さん。
                    サイゾウ …。
                    ハヌケ  オタマ。下手を打ったな。
                    オタマ  …はい。
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                    ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 20:55 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

                    連載12 忍者活劇! !! アトリエ・センターフォワード第5作『刃、刃、刃!』

                    2015.03.23 Monday
                    0

                      二―一

                       深夜。
                      稲葉正成が、陣屋の縁側に座っている。

                      正成  チューチュー。…チューチュー。騒がしいのう。お前らは餌を喰らうだけじゃ。差し出された餌でも、なんでも。…ふん、泣いても世の中は変わらん。

                      サイゾウ (出てきて)稲葉様。三成が動き出したようでございます。
                      正成    やはりか。
                      サイゾウ はい。まもなく徳川様も動かれるはず。やはり、明け方には、この関ヶ原で…。

                      正成    ふん。わかっていたことよ。…血の雨が降る。
                      サイゾウ …しかし、民、百姓は助かったのではないですか? 大垣城を水攻めともなれば田畑は全滅でしょうし、まともに住める民家などほとんどなくなっていたかと。

                      正成    残念であったな。
                      サイゾウ は?
                      正成    いちから村づくりとなれば、商人は大もうけ。濡れ手で粟だったものを。

                      サイゾウ …ご冗談を。
                      正成    冗談だというのか? 三井越後屋のお前が。
                      サイゾウ …。
                      正成    甘いなあ、市にいさんよ。いつか…ろくなことにならん。
                      サイゾウ …。
                      正成   ほれ、なな、なんで? と聞き返せ。
                      サイゾウ お戯れを。このような時に。
                      正成    たわけ。商人がこのくらいのことで。ほれ、八じゃ。
                      サイゾウ …は、は、罰があたりますので。
                      正成    く〜るしいなあ。
                      サイゾウ とう、もすみません。
                      正成    ははは。苦しいのはお互い様じゃ。…なあ、市にいさんよ。もし、お前に良心があったとしてもだ。三井越後屋という集団になったときには役に立たない。集団の目的が、お前の良心など飲み込んでしまうからだ。黒い欲望が、津波となってお前を飲み込む。あがいても無駄じゃ。

                      サイゾウ では、どうしたら…。
                      正成    備えるのだ。考えて考えて、その考えの外まで考えて、備えるのじゃ。
                      サイゾウ …自分ひとりだけでも浮き上がれるように?
                      正成    …ぬかしよるわ。枠組みを変えることができないのなら、それが最善というものだ。

                      サイゾウ …。

                       かすかに雨の音がする。

                      正成    降ってきたな。…お前にはこの雨、どう見える? 赤いか? 黒いか?

                      サイゾウ …。(空を見上げる)
                      正成    どす黒い赤だな、この雨は。
                      サイゾウ …涙に見えます。
                      正成   (馬鹿にして笑う)お互い、気が高ぶっておるようじゃな。(関ヶ原を指して)見ろ。夜明けとともに、枠組みを変える戦いが始まる。天下分け目の合戦じゃ。

                       正成は陣所に入っていく。
                       関ヶ原を睨みつけていたサイゾウが走り出す。

                       
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                      ぶんしょう * 刃、刃、刃! * 01:52 * comments(0) * trackbacks(0) * - -
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